研究・開発の窓 COLUMN
薬物の皮内動態研究をベースに、IoTと連動した新しい経皮吸収型DDS製剤を研究
城西大学薬学部 藤堂浩明准教授(薬粧品動態制御学研究室)
城西大学薬学部の薬粧品動態制御学研究室は、皮膚を介した医薬品や化粧品の体内動態研究やその知見を応用した薬物送達システム(DDS)の研究で知られている。
同研究室を率いる藤堂浩明准教授は、「長年、医薬品を皮膚に塗布あるいは貼付した際に、薬物が皮膚の中をどれぐらいの速度で浸透もしくは透過するのかといった経皮吸収の研究を行ってきたが、薬学6年制がスタートしたころに前任の杉林堅次教授(現在、城西国際大学学長)より大学として特徴のある研究分野をアピールする方針が打ち出され、医薬品だけでなく化粧品などに研究対象を広げるとともに、さまざまな化学物質が皮膚に接触した際の安全性研究、3次元培養皮膚モデルなどを用いた動物実験代替法開発、微細加工技術の発展に伴い開発されたデバイスを用いた薬物投与法開発など、幅広い研究に取り組むようになった」と話す。
特に杉林前教授が中心となって行った化粧品の皮内動態や安全性の研究は化粧品業界に大きな影響を与えた。藤堂准教授も、化粧品では化粧水、乳液、クリームなどさまざまな剤形の製品の同時使用やそれぞれの製品を重ね塗りするケースに着目し、化粧品を2回、3回と同時使用、あるいは重ね塗りしたときの透過性や、塗り方による透過性の違いなど、さまざまな研究を行っている。
「化粧品や医薬部外品を安全に使用するためには、このような実際の使い方に即した研究が重要だ。例えば、2013年に自主回収となったロドデノール含有化粧品の脱色素斑(白斑)発症についても、われわれは皮膚透過性の面から検証している」
これらの研究成果の一部は、「in vitro皮膚透過性試験(in vitro皮膚吸収試験)を化粧品・医薬部外品の安全性評価に資するためのガイダンス」や「ヒト長期投与(安全性)試験の用量設定法ガイドライン」に掲載されている。
皮膚に適用した有効成分が効果を発揮するためには、十分な量の有効成分が皮膚の角層を通り抜けて皮内や全身循環系に到達しなければならない。同研究室が行った研究の一つが、「有効成分の皮膚透過性および皮膚中濃度のin silico予測」に関する研究だ。
皮膚透過性や皮膚中濃度を考慮することにより、血中濃度を推計することができることから、藤堂准教授は「in silico予測手法は、医薬品や化粧品の開発に利用できるだけでなく、化学物質の皮膚暴露後のリスク評価を評価するうえでも必要になる」と説明する。
今後、複雑に設計された製剤からの透過性を予測できるようなモデルを開発することで、実際の医薬品製剤や化粧品製剤などの開発に寄与することができるという。
周知のとおり、皮膚の最も外側にある角層にはバリア機能があり、脂質と水の層が何重にも重なったラメラ液晶構造によって、刺激から肌を守り、水分の蒸発を防いでいる。同研究室が開発したもう一つの技術は、皮膚に入りにくい物質を、ラメラ液晶構造に似た構造を有するカプセルに含有することで皮膚透過性を高める技術である。
ラメラ液晶構造を形成する製剤としてはリポソームがよく知られている。その構成成分であるリン脂質は外側に親水基、内側に疎水基を配した2層に並ぶ脂質2重膜構造になっているが、藤堂准教授らは外側に疎水基、内側に親水基を配した3次元的な非ラメラ液晶構造を形成する非ラメラ液晶形成脂質に着目(図1)。非ラメラ液晶形成脂質により形成された構造体が高い皮膚薬物透過性を示すことを報告している。
藤堂准教授らが最近、力を入れているのが、これまでの経皮吸収研究の知見を生かした新しいDDSの研究である。その一つが、中空型マイクロニードルを用いた経皮吸収システムだ。化粧品ではすでに美容成分を無数の微細な針状に固めたパッチ製品などが市販されているが、藤堂准教授らは多数の企業と共同開発を行い、医薬品、中空型マイクロニードル、さらにIoTなどの技術を組み合わせたDDS開発を目指している。
マイクロニードル型ワクチンは注射型ワクチンより少ない量で効果が期待できるとの研究結果が報告されている。その他のマイクロニードルのメリットとして、藤堂准教授は従来の貼付剤や塗布剤にない中分子や高分子のバイオ医薬品を経皮投与できる点を指摘。
現在は、マイクロニードル、電気浸透流を駆動力としたマイクロポンプとIoT技術を一体化したスマートウォッチ(図2)のようなDDSデバイスを用いた「持ち運べる点滴」による薬物治療の実現を目指して共同研究を進めているという。
また、「まだまだアイデアレベルだが、3Dプリンターを用いたDDSの研究も開始した。化粧品なら個人個人の顔の形状に合わせた美容マスクの作成、皮膚の創傷治療なら、傷の形状に合わせたオーダーメイド型の皮膚細胞を材料としたパッチ剤を作成するなど、多様な可能性がある」と展望を語る。
藤堂准教授は「経皮吸収の研究を始めたころには角層の高いバリア能を突破する難しさに直面した」と振り返る。現在は「皮膚は簡単にアクセスできる臓器であり、工学、数学など異分野の研究者と連携した先進的な研究が行いやすい分野。積極的に共同研究に取り組んでいる」と強調し、「若い研究者には自分の専門分野だけを見るのではなく、幅広い視野で研究してほしい」とアドバイスしている。
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