研究・開発の窓 COLUMN
研究・開発の窓
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製剤設計の効率化をめざし、製剤の特性をレオロジーで数値化する指標を提唱
静岡県立大学薬学部 近藤啓教授(創剤科学分野)レオロジー(流動学)は物体の粘性や弾性を研究する学問である。固体(弾性体)に外力を加えると変形するが、内部から反発力(応力)が生じて、外力を除くと元の形状に戻ろうとする。液体(粘性体)では応力が生じず、外力を除いても元の形状には戻らない。 医薬品や化粧品では、固形剤、液剤のほかに、その中間に位置する粘弾性体の製剤も多用されている。静岡県立大学薬学部の近藤啓氏はこのレオロジーに興味を持ち、「基礎研究と医薬品としての実用化の間を...
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シトクロムP450の研究で化学物質代謝の種差や発がんメカニズムを解明
昭和薬科大学 薬物動態学研究室 教授 山崎 浩史氏薬物代謝酵素として有名なシトクロムP450は、還元状態で一酸化炭素と結合して450nmに吸収極大を示す色素(pigment)であり、1962年に大阪大学蛋白質研究所の大村恒雄博士、佐藤了博士によって「シトクロムP450」と名付けた最初の英文原著が出された。 シトクロムP450には多くの分子種(CYPファミリー)があり、ヒトや動物の体内でさまざまな化学物質の形を変える触媒として働く酵素であることが知られているが、昭和薬科大学教...
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小児の白血病を引き起こす分子メカニズムの解明から革新的創薬へ
国立がん研究センター 鶴岡連携研究拠点 チームリーダー 横山明彦氏小児がんの40%以上を占めるのが白血病やリンパ腫などの血液がんである。国立がん研究センター鶴岡連携研究拠点のチームリーダー・横山明彦氏は小児白血病のメカニズム解明や治療法開発に取り組む研究者だ。 その研究成果から生み出された治療薬候補化合物は、現在、大手製薬企業によって臨床試験が進められている。国立がん研究センター鶴岡研究拠点は、2017年に地方創生事業の一環として同センターの研究機能の一部を移転して誕生し、慶應義塾大学先端...
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抗体薬物複合体の生体膜透過メカニズムを解明し、医薬品の体内動態の最適化を目指す
東京薬科大学薬学部 井上勝央教授(薬物動態制御学教室)近年、抗体やRNAなど新しい創薬モダリティを用いた医薬品の開発が急増しているが、東京薬科大学薬学部教授の井上勝央氏(薬物動態制御学教室)らは、これらの医薬品の細胞内への取り込み(生体膜透過)を中心に研究を重ねている。 井上氏は「創薬では薬効のある医薬品を世に出すことが優先されるため、ニューモダリティを用いた医薬品の体内動態の解明や最適化は一歩も二歩も遅れている」と指摘し、「それらを解明し、制御する方法を開発することにより、よ...
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マウスの体内でヒト肝細胞を培養し、安定的・継続的に均質な実験用細胞を供給する
公益財団法人実験動物中央研究所 研究部門長 末水洋志氏ヒトの肝臓から採取した初代肝細胞は、ドナーによる個体差や供給量の限界といった問題が生じるが、これらの問題を解決したヒト化肝臓キメラマウス由来肝細胞「HepaSH細胞」を開発したのが実験動物中央研究所・研究部門長の末水洋志氏だ。 実験動物中央研究所(川崎市)は1952年に創立された民間の研究所で、公益に資することを目的に実験動物の品質管理に関する基礎研究を続けてきた。1979年には世界で唯一国際実験動物学会議(ICLAS)から...
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次世代の個別化がん免疫治療「ネオアンチゲン・ワクチン、TCR-T細胞治療」の開発に挑む
垣見和宏氏(東京大学医学部附属病院/近畿大学 教授)免疫チェックポイント阻害薬(ICI)の登場以降、がん免疫治療が脚光を浴びているが、患者ごとに固有のがん抗原を標的とする個別化がん免疫治療「ネオアンチゲン・ワクチン、T細胞受容体遺伝子導入T細胞治療(TCR-T細胞治療)」の開発を進めている研究者が垣見和宏氏(東京大学医学部附属病院免疫細胞学講座特任教授/近畿大学医学部・大学院医学研究科免疫学教室主任教授)だ。 垣見氏が研究生活に入った1990年代は、肝炎ウイルスの研究が飛躍的...