研究・開発の窓 COLUMN
研究・開発の窓
マウスの体内でヒト肝細胞を培養し、安定的・継続的に均質な実験用細胞を供給する
公益財団法人実験動物中央研究所 研究部門長 末水洋志氏ヒトの肝臓から採取した初代肝細胞は、ドナーによる個体差や供給量の限界といった問題が生じるが、これらの問題を解決したヒト化肝臓キメラマウス由来肝細胞「HepaSH細胞」を開発したのが実験動物中央研究所・研究部門長の末水洋志氏だ。 実験動物中央研究所(川崎市)は1952年に創立された民間の研究所で、公益に資することを目的に実験動物の品質管理に関する基礎研究を続けてきた。1979年には世界で唯一国際実験動物学会議(ICLAS)から...
次世代の個別化がん免疫治療「ネオアンチゲン・ワクチン、TCR-T細胞治療」の開発に挑む
垣見和宏氏(東京大学医学部附属病院/近畿大学 教授)免疫チェックポイント阻害薬(ICI)の登場以降、がん免疫治療が脚光を浴びているが、患者ごとに固有のがん抗原を標的とする個別化がん免疫治療「ネオアンチゲン・ワクチン、T細胞受容体遺伝子導入T細胞治療(TCR-T細胞治療)」の開発を進めている研究者が垣見和宏氏(東京大学医学部附属病院免疫細胞学講座特任教授/近畿大学医学部・大学院医学研究科免疫学教室主任教授)だ。 垣見氏が研究生活に入った1990年代は、肝炎ウイルスの研究が飛躍的...
毛細血管とグリコカリックスの研究を多様な疾患の治療や予防につなげたい
岐阜大学大学院 医学系研究科 富田弘之准教授(腫瘍制御学講座 腫瘍病理学分野)グリコカリックス(糖衣)は、血管内皮などの細胞表面を覆う糖蛋白質のゼリー状かつ帯状の構造体で、近年、さまざまな生理的機能を有することが明らかになってきている。岐阜大学大学院医学系研究科の富田弘之准教授らは、血管内皮グリコカリックスの構造や機能、疾患との関係などを解明する研究を進めている。 グリコカリックス(図1)は、ヘパラン硫酸やコンドロイチン硫酸、ヒアルロン酸などのグリコサミノグルカンと、それを支えるシンデカンなどのコア蛋...
日本人のトリメチルアミン尿症の実態と原因究明を進め、体臭に悩む患者を救いたい
昭和薬科大学 薬学部 清水万紀子准教授(薬物動態学研究室)トリメチルアミン尿症(別名・魚臭症候群)は、「魚の腐ったような臭い」と例えられる悪臭物質トリメチルアミンによる特異的な体臭を特徴とする疾患である。生命を脅かす疾患ではないが、罹患者は学校や職場などで社会生活を送る際に精神的な苦痛を受け、生活に制限がかかってしまうこともある。 昭和薬科大学薬物動態学研究室の山崎浩史教授、清水万紀子准教授らの研究グループは、日本におけるトリメチルアミン尿症の実態や原因を解明する研究を続けている。...
化学物質による毒性研究を発展させ、実用的な動物実験代替法の確立を目指す
静岡県立大学 薬学部 吉成浩一教授(衛生分子毒性学分野)動物愛護の観点から動物実験の削減や適正化が推進され、従来、そのほとんどが動物実験で行われていた毒性試験の分野でも代替法の確立が急務となっている。静岡県立大学薬学部の吉成浩一教授(衛生分子毒性学分野)は、それまで培ってきた核内受容体を介した化学物質の発がん機序とその種差の研究を踏まえ、化学物質の安全性評価における動物実験代替法の開発に取り組む研究者だ。 吉成氏の研究室では、医薬品、化粧品、農薬など化学物質の有害作用、ヒトを含む...
システム生物学を使って難病のメカニズムと創薬標的に迫る
国立研究開発法人 医薬基盤・健康・栄養研究所 AI健康・医薬センター 上席研究員 伊藤眞里氏システム生物学は、生命現象をシステムとして理解する科学である。原子・分子から遺伝子・タンパク質、細胞、組織・器官、個体、集団・種・生態系に至るまで、階層化された生命の構成要素とその関係性を、AI(人工知能)などのコンピュータサイエンスや数学的な手法を用いて統合・解析し、システムとしての振る舞い、すなわち生物としての発現系や疾患の発症などにつながるプロセスを解き明かす。このシステム生物学を用いて、難病のメカニズム解明や創薬標的...