細胞培養基礎講座 COURSE
細胞培養基礎講座は、 培養の第一人者バイ博士のもとに弟子入りした陽助手が、 日々の細胞培養に関する疑問を博士から教わります。
第8回「細胞培養の歴史」
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「バイ博士、私も培養を始めて1年が経ちました。少しは培養にも慣れ、プロに近づいたかなと思うんですが最近ちょっと悩んでいるんです。」
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「ほう。君にしては珍しいな。何を悩んでいるんだい?」
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「細胞を培養していて別に不満はないのですが、一体何のために培養しているんだろうと思うんです。」
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「そんなことを考えられるようになるとは・・・。君も成長したね。 うれしいよ!組織培養の目的は、生体内で起こっているあらゆる生命現象を生体外で反映させることにあると私は考えている。 そうすることによって生命現象の解明がすすみ、疾病などの治療法が見つかるんだ。 組織培養は、1885年に発生学者のW.Rouxがニワトリ胚の神経板組織を一定温度に保った生理食塩水中で数週間生かしたことから始まる。 これまでは、生体外で細胞を生かすことさえできなかったんだ。」
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「そうすると組織培養の歴史は約100年前に始まったのですね。」
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「そうなんだ。でも当時の培養はただ生きているだけで、生命現象を観察するまでには至らなかった。1907年にRoss.G.Harrisonがカバーガラス培養法と呼ばれる培養法を考案してカエルの凝固リンパ球中で神経組織を培養し、神経繊維が神経細胞から突起を伸ばす現象を観察したのが始めての生命現象の観察となるね。だからこの時を組織培養の始まりととらえることもできるね。」
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「今までの話は全てほ乳類以外の動物ですよね。ほ乳類はいつ頃から培養できたのでしょう。」
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「1910年にM.T.Burrowsが凝固血漿上でのほ乳類の培養に成功したのが始まりだね。そのあと3年後にA.Carrelがカレルフラスコと呼ばれるフラスコを用いて無菌培養に成功して、長期の培養が可能になり、1960年前後のEagleによる合成培地の開発で一気にこの技術が発展してきたんだ。」
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「じゃあ組織培養は比較的新しい技術と言えるんですね。」
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「その通り。今後は、分子生物や組織染色などの技術を駆使して更なる発展が期待されているんだ。癌やウイルスの研究は組織培養の技術なしではあり得ないからね。」
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「そうですね。ただ漠然と細胞を培養していてもそれが将来の人類の役に立つんですね。バイ博士。ありがとうございました。何かやる気が出てきました。博士。今日飲みに行きませんか。日本経済にも貢献しないと。そうだ、今日はナイター競馬があるんだった。博士、競馬場で飲みましょう。日本経済に貢献し、国庫に貢献し、組織培養でも人類に貢献する。ぼくってなんてすばらしい人間なんでしょう。」
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「確かにそこまで前向きに考えられる人はすばらしいよ。」
- 皆さんもあらゆるシーンで人類に貢献しましょう。